障害年金事例
事例3 悪性リンパ腫は障害等級に該当しない?
 田中総一郎さん(仮名)は、歯科技工士でした。仕事には満足していたし、それ相当の収入もあり、子供さんにも恵まれ、生活に不安を感じたことはなかったと言います。
 平成11年6月頃、その田中さんにほんの小さな異常が起きました。
 右目に小さな腫れ物ができたのです。初めはちょっとした違和感だけでした。
 そのうち、日ごとにうっとうしさが増してくるのに我慢し切れなくなった田中さんは、ある眼科クリニックを訪ねました。
 眼科医さんは化膿性の腫瘍と思ったらしく、点眼薬と抗生物質(内服)を処方してくれました。
 それを忠実に点眼し服用しても、一向に腫れは引きません。眼科医さんは、自分の手に負えないと思ったようで、ある大学病院を紹介してくれました。
 年が明けたらそこで腫瘍の摘出手術を受けることになっていた、その直前の平成11年11月30日の夜半、腹部から左脇腹を経て背中に至るあたりに猛烈な痛みが発生しました。直ちに近くの公立総合病院に搬送され、3ヵ月入院している間に、ようやく悪性リンパ腫と判明したのです。
 退院後はほぼ1週間おきに抗がん剤の点滴を受けました。最初の病変だった眼の腫瘍こそ無くなったものの、抗がん剤の副作用でその後の2、3日は気分が悪く、関節の痛みや食欲不振、だるさと手足のしびれ、腹部から背中にかけての痛みなどで、夜も眠れないほどでした。
 これでは歯科技工士の仕事を続けることはできず、廃業に追い込まれてしまいました。比較的余裕のあった生活も一変し、奥さんは夫の看病の傍ら、パート勤務に出ることになりました。
 そこで障害基礎年金を請求したのですが、結果は不支給でした。
 その理由は、血液検査データが、「障害認定基準」の検査所見にあるような異常値を示さなかったからです。
 悪性リンパ腫は、「障害認定基準」では「造血器疾患」の中の「造血器腫瘍群」に分類され、その基準は、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などに等しく適用されるように定めてあります。
 田中さんの苦痛は依然として続いていて臨床所見もあるのに、血液の検査所見だけが正常値を示すのは何故なのか、いくら思い悩んでも素人の悲しさで、田中さんが障害年金を受けられることを立証する手立てがなく、徒に数ヵ月が過ぎてしまいました。
 そのうち、大阪市内で白血病の医学講演会があることを知り、私、青木社会保険労務士は、藁をもつかむ思いで出かけました。
 その講演を聴き進むうち、白血病は同じく血液の病気とはいっても、悪性リンパ腫とは全く異なる病気だということが判ってきました。これでは、わざわざ聞きに来た甲斐がなかったか、と失望したのですが、講演終了後に個人相談を受け付けるというアナウンスがあったので、それに望みをつなぐことにしました。
 やっと順番がきた私は、その医師に、単刀直入に障害認定基準を示し、悪性リンパ腫で苦しんでいる人の検査所見が正常値を示すのは何故なのかを質問しました。
 すると医師は言下に、「悪性リンパ腫では、血液データはいつも正常だよ」と言ったのです。眼から鱗とは、まさにこういうことを言うのでしょう。素人にはまったくの謎だったことが、医師にとっては常識でしかなかったのです。
 それは同時に、「障害認定基準」の明らかな間違いが、白日の下に曝された瞬間でした。
 その一言に励まされて血液内科の専門書を読んで医学的な裏付けを取った私は、内科医であるその県の認定医員にも判ってもらえるように理由書を書き、あらためて再度裁定請求を行いました。
 結果は、障害基礎年金の受給権確定でした。
 その後田中さんは年金が受給できたことに力づけられたのか、がん患者の自立を援助する運動を起し、精力的な活動を始めました。
 ついには、その後の症状が障害等級に該当しなくなったと判定されて、現在は障害基礎年金を支給停止されていますが、相変わらず意気軒昂と県内を飛び回っています。

【社会保険労務士 K.A】(奈良県)

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