障害年金事例
事例2 喘息発作で失明するなんてアリか?
 阿部忠雄さん(仮名)の眼は、目の前が明るいのか暗いのか(明暗弁)しか判りません。手足もほとんど動かせません。障害年金の障害等級に当てはめれば、失明ということと、もう一方の肢体機能の全喪失の、どちらか一方だけでも、優に1級に該当する重症です。
 誰に言われるまでもなく障害年金の受給を思い立った奥さんは社会保険事務所へ出向き、職員に教わりながら、何とか障害厚生年金の請求書を作って提出しました。しかし社会保険業務センター(社会保険庁の実務機関)は年金を出そうとしないのです。
 その前に、阿部さんは一体何が原因でそんな重度障害を負ったのかを説明しなければいけませんね。
 阿部さんはあるとき突然心肺停止状態に陥り、脳に酸素が充分供給されない「低酸素脳症」になったことで、大脳皮質が大きなダメージを受けたのです。
 そのために、眼球や視神経や手足には何の異常もないのに、脳がものを見る力を失い、脳が身体を動かせなくなってしまったのです。
 ではさらに、阿部さんの心肺停止はなぜ起ったのでしょうか。
 障害厚生年金を審査する社会保険業務センターは、阿部さんを最初に診察し蘇生させた医師が作った「受診状況等証明書」の傷病名欄に「気管支喘息重積発作」と書いてあることを鵜呑みにして、心肺停止の直接の要因は喘息の発作だと断定しました。
 詳しいことは省略しますが、このことが障害厚生年金を出さないことの根拠にされていましたから、心肺停止の原因が喘息発作ではなかったことが証明されない限り、阿部さんは障害厚生年金を受給できないことになりました。
 奥さんの訴えを受けたNPO法人障害年金支援ネットワークからこの件の担当を委嘱された私、青木社会保険労務士は、何よりも心肺停止が気管支喘息の発作で起ったということに強い疑問を抱きました。
 奥さんにお聞きしたところ、阿部さんの喘息については、20年近くもきちんと病院に通って定期的に治療を続けていること、この間、呼吸困難で何度か緊急入院することはあっても、心肺停止状態になるようなひどい発作を起したことは一度もなかったことも判りました。
 さらに関係書類を読み込んでいた私は、上の「受診状況等証明書」の中に、「歯科治療後」に発作が起きたと書いてある部分に注目しました。
 奥さんに聞いてみると、その歯科治療とはインプラント術だということでしたが、歯科治療とはいえ虫歯の処理などとは桁違いで、手術にも匹敵するインプラント術だったからには、麻酔剤が欠かせないはずだと気付きました。
 歯科医が治療に使う麻酔剤が「キシロカイン」だということは、すぐに判りました。
 さらに調べているうちに、キシロカインを使った歯科治療中に患者が死亡し、損害賠償請求訴訟さえ起っていることも判ってきました。
 そしてキシロカインは、患者の体質と状況によっては、喘息発作とは比較にならない、死に至ることもある激しいアレルギー反応である「アナフィラキシー・ショック」を起すことがある、ということも医学書で知りました。
 上の証明書を書いた医師にこのことを告げて意見を求めたところ、彼はアナフィラキシー・ショックだった可能性もあることを、しぶしぶ認めました。それをその医師の意見書として書いてもらい、さらにアナフィラキシー・ショックを発症するメカニズムを申立書にまとめ、調査中に得た医学資料などを添付して、あらためて社会保険業務センターに請求しました。
 さすがに今度は、同センターも障害厚生年金の支給を認めました。
 以上のことは、さまざまなことを示唆していますが、今後の障害年金の裁定請求や不服申し立てに生かされれば何よりだと思います。

以上

【社会保険労務士 K.A】(奈良県)

NPO法人 障害年金支援ネットワーク ( フリーコール:0120-956-119 )